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広島地方裁判所 昭和37年(ワ)527号 判決

原告 国

訴訟代理人 森川憲明 外五名

被告 寺田盛夫

主文

被告は原告に対し四八四、五三八円および内金四九五、一〇〇円に対する昭和二四年六月一一日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。但し、被告において一〇〇、〇〇〇円の担保を供託するときは右仮執行を免れることができる。

事  実 〈省略〉

理由

一、まず、本件機帆船の売賀について審案するのに、成立に争いのない甲第一ないし第五号証、第六号証の一に証人清水定男、美同大林正男の各証言および被告本人尋問の結果の一部を綜合すると、本件機帆船はもと沈没船で国の所有に属していたものであるが、昭和二三年頃訴外日東サルベージ株式会社がこれを引揚げて被告に売渡したため、国がその所有権を主張するに至り、ここに三者協議の結果翌二四年二月頃被告が更めて国に対し売払の申請をなし、同年五月一四日附をもつて広島財務局長より被告に対しその売渡の決定があり、同日国から被告に対し代金五一一、〇〇〇円その支払期を同年六月一〇日として右機帆船を売渡す旨の契約が成立し即日その引渡しがなされたことを認めることができる。被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用せず、他に右認定を左右する証拠はない。そうであるなら、被告は右機帆船の買受人として原告に対し右売買代金支払の責に任ずべきものである。

二、ところで、被告は、右代金のうち本訴請求部分につき免除があつた旨主張するので考えるのに、原被告間で昭和二八年四月頃、右代金の内五〇、〇〇〇円を五年間に分創支払い、その余の部分の支払については別途協議決定する旨の裁判上の和解が成立したことは当事者間に争いがないが、右和解の文言からは直ちに右五〇、〇〇〇円を超える部分について免除があつたものということはできない。被告本人尋問の結果中にはその主張に沿うような供述部分もあるが、その部分も成立に争のない甲第三ないし第五号証に照らして直ちに措信しがたく、他にその主張事実を認めるに足りる証拠はない。よつてこの点に関する主張は採用できない。

三、被告は更に、右和解により本訴請求部分の代金については原被告間で別途協議すべく定められているところ、当事者間において未だ協議成立していないからこれを支払う義務がないと主張するけれど、成立に争いのない甲第五号証、第六号証の一ないし三および弁論の全趣旨からして、原告が被告に対しその後協議をなすべく機会を与えて協力方を要請したのに対し、被告は充分なる協議をなさず、今日に至つている事実が認められるのであつて、この事実からすれば右協議は被告の責に帰すべき事由によつて現在その成立を期待しえないものといわざるを得ない。もつとも、前認定の本件機帆船買受の際よび被告本人尋問の結果や成立に争いのない甲第四号証からうの事情おかがえる被告の困窮した生活状況からすれば、被告については少からず同情を寄せるべき事情が認められ、前記和解の内容自体からしても原告が従来との事情を汲んで事の処理に当つて来たことは明らかであるから、今筏も各当事者において残余の代金について充分協議を尽すべく努力することが望ましいが、これらの事情をもつてしても未だ協議の成立を期待しうるものとすることはできない。そうであるなら、被告は右協議の未だ成立しないことをもつて右残代金の支払を拒む理由とすることはできない。

四、しからば、被告の主張はすべて理由がないから、被告は原告に対し、右代金の残額四五九、一〇〇円を支払うべき義務があるというべく、また被告が運送業であることは当事者間に争いがないので、右債権は商事債権というべきであるからこれに対し、その弁済期の翌日である昭和二四年六月二日から完済まで商法所定の年六分の利率による遅延損害金を附加して支払うべき義務がある。また、被告が右代金のうち、別紙支払明詳書のとおり合計五一、九〇〇円を原告に支払つたことは当事者間に争いがないが、その各支払金も弁済期後の支払であつて、これに対する遅延損害金につき原告が免除していないことは成立に争いのない甲第三号証の記載からも明らかであるから被告は原告に対し前記同率により別紙遅延損害金明細書記載のとおり合計二五、四三八円を支払うべき義務がある。

そこで、被告に対し右各義務の履行を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言およびその免脱宣言については同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決す

(裁判官 千種秀夫)

遅延損害金明細書〈省略〉

支払明細書〈省略〉

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